今井義博の父親学

今井義博の父親としての哲学を、実話に基づいて紹介。

今井義博の父親学 イジメ問題への取り組み ③

『問題解決』の過程と現実

<②までのあらすじ>
 今井家の朝は、午前6時に家族全員がテーブルにつき、全員で「いただきまーす。」から始まる。家族構成は妻一人、子供4人(長女14歳、長男11歳、次女7歳、次男4歳、長男と次女は同じ小学校に通っている)。ある朝、小学校1年生の次女Sが学校で上級生から「オシリ」と呼ばれ、嫌な思いをしていることが発覚した。「自己解決」を親から求められているSは3度にわたり“嫌だからオシリと呼ばないで”と言ったのだが、相手はそれでも止めてくれない。

 新1年生が3年生に対し、3度にわたり勇気をもって“嫌だからオシリと呼ばないで”と言ったことは評価に値するし、親として彼女の行動を誇りに思う。
 問題解決の過程ではあるが次の段階に移る前に、この段階までに私がSに求めた行動と求めた理由(教育)を整理しておこう。

1、教育定義の確認と実践
 「人の嫌がることをしない、自分がされて嫌なことは人にしない、嫌がることをされた人がいれば助ける」という今井家の教育定義を子供自らの行動で学ばせる。今回のケースはSが人に嫌なことをされている立場だが、それを放置することは“嫌がることをされても放置する”ことになり、肯定することになる。つまり、人が嫌なことをされていても放置することになり、今井家の“人を助ける”という教育定義と矛盾することになるのである。

2、自己解決
 子供を今すぐ助けたいという親心を抑え、“自分に起きた問題は先ず自分で解決する努力を”させる。これは父親(教育者)としての判断であり、経営者としての判断とは異なる。経営者は起きた問題を1秒でも早く解決しなければならない。自己解決をスタッフに求めている時間などない。そして、迅速な問題解決の直後には、起きた問題の予防策をスタッフに客観的に指導浸透させなければならない。

3、善悪の分別と正義感
 親である私から、なぜSは上級生に“嫌だからオシリと呼ばないで”と3回にわたり言わされたのか。前述したように私から自己解決の努力を求められているのではあるが、もう一つ大切なことは“善悪の分別”をおぼえさせるためである。3回も嫌だと言ったのに止めてくれないのは、明らかに相手に悪意があることの確認である。

 そして、それよりも重要なことは、この問題を通じて「諦めない」「悪とは徹底的に戦う」「正義は勝たなければならない」「正義を貫くには強くなければならない」ということを学ぶことである。
 実はもう一つ理由がある。3回も止めてくれと言ったのに止めてくれなかったという事実(証拠)を残すということである。つまり、上級生が下級生に対し嫌なことをしていることに加え、止めてくれと3回も言っても止めてくれなかったという事実は、第三者が簡単に善悪を判断する材料になるからである。この一件に第三者の介入があることを予測して準備しておくのである。
 ちなみに、私は問題が発生した日時と内容は完全にドキュメントしている。

4、問題に対する姿勢
 問題から逃げない、問題に負けない、問題をごまかさない、問題を正当化しない、問題を他人のせいにしない、問題は必ず起こる、問題は解決できる、問題は財産である、問題解決は自己成長である。
 この姿勢は、教育者として、経営者として、男としての姿勢に共通する。今まさに、Sは「問題から逃げない」ことを体と心で学んでいるのである。
 “問題解決は自己成長である”ことを認識できるまでに教育することは親である私の責任である。しかし、言葉だけでそれを教育することは実に難しいし、1年生のSには理解できるはずもない。だからこそ、この『絶好の機会』に、先ずは「問題から逃げない」ことをおぼえさせるのである。
 「問題の発生」が『絶好の機会』と認識できるまでの道のりはまだまだ険しいが、中学を卒業するまでに体得することを目標に日々の朝食に臨むのである。やがて「問題を起こさない」ために何をするべきかということもその都度学んでいくのである。

 ところで、デューイ(Dewey,1910)という心理学者は、人間の問題解決の過程には次の5段階があると言っているので紹介しておこう。(Psychology Science of Heart and Mindから引用)
(1) 問題の認識
 問題解決の最初の段階は、さまざまな事象・現象のなかに何らかの解決すべき問題が存在することを認識することである。試験問題を与えられた学生のように、解決すべき問題が明示されていることもあるが、日常場面では問題の所在があまり明確でない場合も少なくない。

誰しもが経験しているように、小さい問題を見過ごしてしまい、後に大きな問題になってしまうということである。厳しい言い方をすれば、問題を認識する力のない経営者は経営者の資格がないのである。
(2) 問題の把握
 問題の存在が認識されると、次の段階は問題がどこにあるのかを把握することである。

たとえば、患者が大幅に減少しているという問題を認識したクリニックは、「近くに最先端の医療器具をそろえたインテリアデザインもモダンなクリニックが進出してきたことが患者減少の原因であり、早急に対応策を考えなければならない」というように問題点を把握するかもしれない。
(ちなみに、患者が減少する根本的な原因は、決して医療機器やインテリアではないと断言する。)
(3) 解決法の着想
 問題点の把握がなされると、次の段階は問題の解決方法を着想することである。

 上述のクリニックの場合であれば、「診療時間を延長して対抗する」「訪問診療サービスを始める」「効果的な宣伝方法を工夫する」「ホームページを作成する」「インテリアをリニューアルする」などの解決方法が着想されるかもしれない。
 (モノを変えただけでは問題解決にならないと、これも断言する。)
(4) 解決法の検討
 解決法が着想されると、次の段階では、その解決法の有効性の検討がされる。

 上述のクリニックの場合であれば、それぞれの解決法のメリットやデメリットを比較検討したり、実施に伴うコストや波及効果の予測などがされる。
(5) 解決法の選択
 問題解決の最後の段階は、着想・検討された解決法のなかから最善と思われる解決法を選択することである。もし、この段階でどの解決方法も不適切であることがわかれば、再び問題点の把握をし直し、新しい別の解決法を着想しなければならない。
 もちろん、全ての問題解決過程がこのような段階をたどるとは限らないが、多くの場合、これと類似した段階をたどるものと考えられている。

 さて、Sの抱えている問題とSの問題解決への努力は、朝食のテーブルで家族全員が把握していることは言うまでもない。Sが、どんな嫌なことをされ、父親からどんなことを指示され、どんな行動をとり、未だに解決に至っていないことを家族全員が知っている。つまり、朝の朝食の時間を共有することが、Sに起きている問題を共有することに繋がっているのである。

 ここから、問題解決の新たな展開が始まるのである。

 次の問題解決の中心人物は、Sと同じ小学校に通う小学5年生の長男Kである。Kは妹Sの抱えている問題とその解決努力を毎朝目の当たりにしている。にもかかわらず、妹の問題の解決に向けて積極的に協力しようとしていない。要するに他人事なのである。かといって、彼を一方的に攻めるつもりなど毛頭ない、これまでの段階では。そして、何より彼自身がこの問題の解決に自分がかかわることなど想像もしていなかったに違いない。
 もし、オシリと呼ばれて嫌な思いをしていると判明したその瞬間に、兄であるKが「僕がSを助ける」と言ってくれたとしたら、父親として「よく言った」と誉めてやりたい。
 しかし、残念ながらその言葉は聞けなかった。要するに今井家の定義である「人の嫌がることをしない、自分がされて嫌なことは人にしない、嫌がることをされた人がいれば助ける」が浸透していなかったのである。耳で聞いていても脳(心)で理解できていなかったのである。私の父親として教育者としての伝達能力(コミュニケーション・スキル)がいかに低いかの証拠である。
 悪いのはKではなく、まず私なのである。ただただ反省である。
 しかし、初期段階で兄のK(五年生)が妹を助けることを私に進言しても、私の判断は変わらない。おそらく次のような会話になるだろう。

 「お父さん、僕がSを助けるよ。」
 「よく言った。偉いぞ。でもね、頑張ってSが解決しなくちゃいけないんだ。」
 「どうして?Sは嫌がっているし、相手は上級生(三年生)だよ。」
 「そうだね。だけど、いつもいつも妹を助けられるとは限らないよね。だから、一人でも解決する練習をしなくちゃいけないんだ。もし、3回戦っても勝てなかったら。助けてやりな。」

 あくまでも、Sに『自己解決』を求めるのである。いつも兄が助けてくれるわけではないし、Sは兄の持つ子供社会とは別の子供社会で生きているのだから。
 しかし、残念ながら兄Kから妹を助ける旨の言葉は聞かれなかった。ここから、Kへの教育が始まるのである。妹の不幸を見過ごす兄を私は再教育しなければならないのである。

 そして、兄Kの戦いが始まる。

著者プロフィール 医科歯科開業、物件に関するご相談はこちら TEL 03-3833-3950 eMail info@keystation.com

今井 義博の写真

株式会社キーステーション 統括プロデューサー 今井 義博

経 歴

  • 1961年、東京生まれ
  • 暁星学園小中学校卒業(暁星歯学会・事務局長)
  • 早稲田実業学校高等部卒業(早稲田実業学校校友会・代議員、サッカー部OB会・副会長)
  • 早稲田大学専門学校建築設計課卒業・現早稲田大学芸術学校(稲門建築会会員)
  • (株)銀座コージーコーナー(店舗開発設計室)
  • (株)清水建設(OAセンターCAD開発)
  • (株)デンタルリサーチ社(職業紹介事業・東京都第1号)
  • Tokyo Expert Network of Japan(J-TEN)代表
  • (株)キーステーション(統括プロデューサー)
  • ニュー・マーケティング協会会員
  • 詳細プロフィールはこちら >>

著 書

  • 医療人事戦略(クインテッセンス出版)
  • リニューアル&ニューオープン(クインテッセンス出版)
  • 歯科医院経営近未来学(クインテッセンス出版)
  • 挑戦する医院経営(じほう社)
  • 医院経営と空間デザイン(Health Sciences Vol.24No1 2008日本健康科学学会誌掲載)