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統括プロデューサー 今井義博の経営学。
人財経営 『リッツ・カールトン』徹底研究 ⑥
リッツ・カールトンを支える7つの仕事の基本
- PRIDE & JOY 誇りと喜びを持てば意欲が湧く
- Don’ t think. Feel 考える前にお客様の温度を感じなさい
- Let’ s have fun 仕事を楽しめば自分の感性が発揮できる
- CEREBRATION お祝いしたいと思う気持ちがサービスの質を高める
- Chicken Soup for the Soul 優しさは仕事人としての必須条件
- PASSION 情熱は組織を動かす大きなエネルギーになる
- EMPOWERMENT お客様の願望をスピード解決
(サービスを超える瞬間:かんき出版)より
『リッツを支える7つの仕事の基本』の一番目“PRIDE & JOY 誇りと喜びを持てば意欲が湧く”の礎となる「ファースト・クラス・カード」の効果効能を紹介させていただいた。しかし、「ファースト・クラス・カード」は“リッツの人財経営”の重要な一部ではあるが全体ではない。「ファースト・クラス・カード」の次のステップである「ストーリー・オブ・エクセレンス(別名ワオ・ストーリー)」の仕組みを説明する前に「ファースト・クラス・カード」が何であるか再確認しておこう。
「ファースト・クラス・カード」は、リッツの従業員全員が常に携帯しており、従業員同士の感謝を現すカードであり、人事部に記録され「人事査定=報酬」に反映される。
「ストーリー・オブ・エクセレンス(別名ワオ・ストーリー)」
この「ストーリー・オブ・エクセレンス(別名ワオ・ストーリー)」とは、分かり易く言えば、お客様と従業員のあいだに起こった“素敵な出来事”と、従業員と従業員のあいだで起きた“素敵な出来事”、その“素敵な出来事”をリッツは週に2回の朝礼で全従業員に発表しているのである。
例えば、歯科医院内で次のような出来事が起こったとしよう。
ある夏の日の午後、待合室で母親の治療の終わりを待っている幼児が一人、既に治療を終え緊張感から開放されたことも手伝って、船を漕ぎ出し始めた。そしてついに、座っていたベンチにゴロリ。待合室にはもう一人、治療を終えた女性患者が座っている。
その幼児の様子を見ていた受付スタッフのAさんは、おもむろに受付から待合室に出て行き、片手に持ったタオルケットをそっとその幼児にかけた。
その瞬間、診療室から
「Aさん、Aさんカルテ持ってきて。」と、ちょっとイラツキ気味の院長の声。
Aさんは待合室から「すみません。今持っていきます。」と受付に戻り、院長のもとにカルテを運ぶ。
しばらくして院長が、受付近くを通りながら「受付から勝手に離れないでくれ。」と一言。
Aさんは「はい、すみません。」と。
治療を終えた母親が待合室から診療室に戻り、タオルケットをかけてスヤスヤと寝ている我が子に気付く。「気持ち良さそうに寝ていること・・・あら?このタオルケットは・・・?」と待合室の女性の顔を振り返る。女性はその母親の視線を受付方向に優しく誘導する。母親は受付にいるAさんに
「優しいのね、ありがとう。」と言ってタオルケットを丁寧に返す。
Aさんは母親の顔を見て、どういたしまて、という言葉よりも勝る笑顔で応える。
これは全て実話である。この実話にはまだ先がある。
この事実の一部始終を目撃した待合室の女性がこの事の成り行きを院長に全てを話したのである。この目撃者の女性が院長に話していなかったら院長は未だにこのAさんの“思いやり”に気付いていいないばかりか、Aさんへの評価はむしろマイナスへ向かっていたかもしれない。
以下は院長の私に対する実際のコメントである。
「いやー反省させられましたよ。今井さんからリッツの本(サービスを超える瞬間:かんき出版)をすすめられて読んでみて、感動したんですよ実は。でも、自分の診療所と重ねて真剣に考えてなかったんでしょうね。
もし、この目撃者である女性が、私にこの事実を教えてくれなかったら、私は今もAさんの患者さんに対する“思いやり”に気づかなかったって事じゃないですか。院長の目は一つしかないんですよね。それも、意外と主観的なんですよね。目も一つなら、考え方も一つになってしまうことって、恐ろしいことですよね。
Aさんから話しを聞いたら、なんと一度や二度じゃないそうなんですよ。タオルケットも自分で用意して受付の下においてあったんですって。一度使ったら念のため洗濯もしていたそうなんですよ。
もっと参ったことに、“なんで気付いたの?”って聞いたら、“冬休みに初めて飛行機に乗った時、スチュワーデスさんが、希望するお客さんに準備してあった毛布を配っている姿を見て、”親切だなって思ったから“って言うわけですよ。それって既に私も経験していますし、初めてをその光景を見た時はAさんと同じように“親切だな”って思っていたはずなんですよね。
素直に“親切だな”と感じたことを自分の行動に取り入れればよいものを、いつしかそれに慣れちゃって、あげくの果てに“高い航空運賃を払っているんだから当たり前だ”ぐらいにしか思わなくなっちゃったんですよね。
いやー本当に参りました。また反省です。」
この院長の素晴らしいところは、先ずは事実を受け入れるという“素直な心”を持ち、反省し、反省したことを科学的に医業に取り入れるという姿勢にあり、この姿勢はリッツと同様である。
事実この院長は、この出来事をスタッフ全員の前で発表し、Aさんの行動(思いやり)を讃え、同時に謝罪した。この発表こそが、リッツの「ストーリー・オブ・エクセレンス(別名ワオ・ストーリー)」なのである。
つまり、自らが創造するサービスやホスピタリティーが起こす“素敵な出来事”を当事者以外の第三者が評価し、発表してあげるというシステムによって、評価される当事者も他の人間も“やる気”がでるばかりではなく、仕事に“喜びや誇り”を感じるようになり、どんなサービスやホスピタリティーがお客様を感動させたかという情報を共有することもできるのである。これこそがリッツの“狙い”である。
そして、この医院では院内でおきた素敵な出来事をAさんの頭文字をとって『Aカード』と名付けた。この院長のユニークなところは、本人が院内の仕事を通じて『Aカード』をもらった枚数の評価に加え、仕事以外(院外)の時間帯(日常生活)で“『Aカード』な現象”を見つけた人の評価を加えたことにある。この“『Aカード』な現象”を“素敵な出来事”の頭文字Sをとって『Sカード』とし、『Sカード』5枚で『Aカード』と同様の報酬を与えるというシステムを加えたのである。そして、カードが発生するたびに朝礼で発表することに決めたそうである。
人を思いやる気持ちがなければ医療人としての仕事は成立しないことは言うまでもないが、人を思いやる気持ちを評価することも医療人として大切な仕事ではないのだろうか。
リッツの人財マジックはこれで終わらない。
経 歴
- 1961年、東京生まれ
- 暁星学園小中学校卒業(暁星歯学会・事務局長)
- 早稲田実業学校高等部卒業(早稲田実業学校校友会・代議員、サッカー部OB会・副会長)
- 早稲田大学専門学校建築設計課卒業・現早稲田大学芸術学校(稲門建築会会員)
- (株)銀座コージーコーナー(店舗開発設計室)
- (株)清水建設(OAセンターCAD開発)
- (株)デンタルリサーチ社(職業紹介事業・東京都第1号)
- Tokyo Expert Network of Japan(J-TEN)代表
- (株)キーステーション(統括プロデューサー)
- ニュー・マーケティング協会会員
- 詳細プロフィールはこちら >>
著 書
- 医療人事戦略(クインテッセンス出版)
- リニューアル&ニューオープン(クインテッセンス出版)
- 歯科医院経営近未来学(クインテッセンス出版)
- 挑戦する医院経営(じほう社)
- 医院経営と空間デザイン(Health Sciences Vol.24No1 2008日本健康科学学会誌掲載)