独立開業を成功へ導く経営学

統括プロデューサー 今井義博の経営学。

人財経営 『リッツ・カールトン』徹底研究 ③

『 経営は、心に始まり、科学を通じて、心で終わる 』

 読者にはなんとも抽象的な言葉に聞こえるかもしれない。しかし、リッツ・カールトンを研究すればするほど、こう思えてならないのである。この私の抽象論を私なりに科学してみたのが次の方程式である。

 

サービスの方程式 “ 心 × 科学 = サービス ”
リッツは顧客に対する『心』に『科学』をかけ合わせ、『サービス』に成長させている。

 

ホスピタリティーの方程式 “サービス × 心(使命) = ホスピタリティー(奉仕の精神)”
 その『サービス』にさらに『心=使命』をかけ合わせ、従業員の『ホスピタリティー(奉仕の精神)』を育成している。

 

ブランドの方程式
“ホスピタリティー × 科学(評価と報酬) × 心(達成感) = ブランド(経営哲学)”

 そして、その従業員の『ホスピタリティー』を維持するために、さらに、『科学=企業の仕組み(評価と報酬)』と『心=達成感』をかけ合わせ、揺るぎない経営哲学=ブランドを確立しているのである。
 それはリッツの社員採用から始まる。

 

『リッツの社員採用=心の採用』
 リッツの面接は、過去のキャリアや能力を知ることよりも、採用しようとする人の『人間性=心』のあり方を知ることに重きが置かれるのである。
 私は医療業界で職業紹介事業(人材紹介業)を実践した実務者として、このリッツの方針にはおおいに共感できるのである。特に中途採用(転職希望者)については、過去の医院での経歴や経験年数などはほとんど参考にならない。重要なことは、その転職希望者が、私の紹介する新しい医院で、院長とスタッフ、そして患者さんと質の高いコミュニケーションが取れる能力があるかどうかなのである。

 

 医療技術的な能力は関係ない、などと言うつもりは全くない。しかし、新しい職場には新しい職場の方針があり、ルールがあり、院長の技術基準がある。技術論を語る前に、転職者にそれらを受け入れる“心”があるか否かが重要なのである。

 

 よくあるトラブルの一つとして、過去の医院での経験(良し悪しは別)を引きずりながら新しい就職先でもそれを良しとして、院長に確認もとらず診療を行うことで問題を起こす場合がある。ここまではよく起きる問題である。(決してよく起きてはならないのではあるが。)
 この問題が起きた後の転職者の“心”のあり方を紹介前の段階で面接を通じて調査し、紹介の説明を決めるのである。問題が起きた直後の転職者の“心”の型はおおよそ次のパターンである。

  1. こう治療しちゃいけないんだったら最初から言ってくれよ。(責任回避型)
  2. 今まではこう治療してきたから問題ないなのになあ。(結論回避型)
  3. この治療方針では納得いかないから早めに辞めよう。(否定逃亡型)
  4. 納得いかないけど、しょうがないから院長の言うとおりにしよう。(放置完結型)
  5. 先ずは院長の方針に従おう。(導入従属型)
  6. 院長の方針に従い、疑問が残る場合は院長にその理由をよく聞こう。(肯定行動型)
  7. 院長の方針を理解し、疑問や問題があれば院長と相談し修正していこう。(肯定向上型)

 もちろん、転職者(採用者)に1~4のように思わせる全責任は院長にある。こう思わせないために、問題が起きないために事前に何をするべきか、事後どうするべきかの方法論を院長は持っていなければならない。
 一方、5~6のようなタイプはどこに勤めても、どこで開業しても成功することは私よりも読者が一番よく知っているはずである。

 

 前述したように私の面接は、その転職希望者の『質の高いコミュニケーションが取れる能力』が、どのレベルにあるかを把握することが最も重要なポイントであると申し上げた。つまり、これから求人先医院に紹介しようとする人間の心に、周りの人間、関わる人間達となんとか上手につきあいたいという姿勢があればこそ持ち合わせる“思いやり”や“素直な心”がどのくらいあるかをつかむことこそが、求人者に対する重要な紹介要件になるのである。逆に言えばその人材の責任感の礎となる“心”の度合いを把握することが最も難しいのである。付け加えておくが、それは私の先入観や主観性で判断するのではなく、心理学的に準備されたアンケートによるものである。
 さて、リッツに話しを戻そう。

 

『技術は訓練できてもパーソナリティーは教育できない』
 リッツの人事は、この実に厳しい言葉に表されている通り、リッツ・カールトンの人材採用システムは、人間の性格や価値観、倫理観をチェックし、その人間性がリッツの理念を共有できなければ採用はしないという哲学を持っている。
 厳しい、実に厳しい、と感じているのは私だけではないはずである。そして、ザ・リッツ・カールトン・ホテル日本支社長の高野登氏は著書(サービスを超える瞬間:かんき出版)で次のように語っている。
 「サービスの技術や技能は訓練すれば習得できます。知識もキャリアを積めば自然に身につくものです。しかし、その人の人格や価値観は長い時間をかけてつちかわれてきたものであり、あとからそう簡単に変えられるものではありません。テクニックはあとから訓練できたとしても、パーソナリティーは鍛えられないのです。」
 つまり、人格者でなければ採用しないということである。さらに言えば、子供のころから受けた教育環境(学歴ではない)から形成された人間性を含め、採用の判断要件となるということである。
 では、リッツがなぜそこまでスタッフ(人材)にこだわるのか。

 

『立地条件が良ければ成功する時代は終わった』
 ホテル業界では「ロケーション、ロケーション、ロケーション」と言われた時代は終わったようである。感性の時代に入った今は、「ピープル、ピープル、ピープル」、つまりそこで働くスタッフで開業の成功は決まる、という時代に入ったと高野登氏は語っている。
 驚くことに、医療業界も「ピープル、ピープル、ピープル」の時代に入ったことが患者アンケートを通じて証明されているのである。
 

著者プロフィール 医科歯科開業、物件に関するご相談はこちら TEL 03-3833-3950 eMail info@keystation.com

今井 義博の写真

株式会社キーステーション 統括プロデューサー 今井 義博

経 歴

  • 1961年、東京生まれ
  • 暁星学園小中学校卒業(暁星歯学会・事務局長)
  • 早稲田実業学校高等部卒業(早稲田実業学校校友会・代議員、サッカー部OB会・副会長)
  • 早稲田大学専門学校建築設計課卒業・現早稲田大学芸術学校(稲門建築会会員)
  • (株)銀座コージーコーナー(店舗開発設計室)
  • (株)清水建設(OAセンターCAD開発)
  • (株)デンタルリサーチ社(職業紹介事業・東京都第1号)
  • Tokyo Expert Network of Japan(J-TEN)代表
  • (株)キーステーション(統括プロデューサー)
  • ニュー・マーケティング協会会員
  • 詳細プロフィールはこちら >>

著 書

  • 医療人事戦略(クインテッセンス出版)
  • リニューアル&ニューオープン(クインテッセンス出版)
  • 歯科医院経営近未来学(クインテッセンス出版)
  • 挑戦する医院経営(じほう社)
  • 医院経営と空間デザイン(Health Sciences Vol.24No1 2008日本健康科学学会誌掲載)